デザイン思考の実践による農業イノベーション
中西金属工業 ☓ KMD「アグビー」
アグリカルチャー(農業)とビークル(乗り物)から名付けられた「アグビー」は、「農家の相棒ロボット」をコンセプトに開発された動く台車と、アプリケーションを用いたサービスです。ユーザーに追従しながら、荷物の運搬や積み下ろしをサポートして身体負荷を軽減します。また、さまざまなセンサーを搭載して畑の状態や収穫量を計測し、そのデータをアプリで管理して収穫計画に役立てることができます。
アグビーは、ベアリング用リテーナーの日本シェアナンバーワンを誇る中西金属工業(NKC)とKMDによる「NKCイノベーションプロジェクト」から生まれました。2011年に大阪市で行われた勉強会で、同社の経営層が奥出直人教授によるデザイン思考のレクチャーを受けたことがきっかけとなり、14年から産学共同プロジェクトを実施しているのです。このプロジェクトではまず農家を訪問して作業を観察・調査した後、NKCの敷地内にあるイノベーションスタジオでコンセプトデザインおよびプロトタイプ制作を経て、展示会でユーザーやメーカーの反応を見るというプロセスを積み重ねました。リーダーの木村光希氏は、「それまでつながりのなかった各事業部や大学から人が集まってチームとなり、新しいものを生み出すのは本当に楽しく、勉強になった」。奥出教授も、「学生たちも大阪に仮住まいし、実際の工場でものをつくる手応えを感じながらデザイン思考を実践できたのは貴重な体験」と振り返ります。
キーワードは「百姓の来年」。フィールドワークを通じて農家から聞こえてきたのは、「来年はもっと収穫量を増やしたい」「来年は新しい品種に挑戦したい」など1年先に向けた展望の言葉でした。「試行錯誤そのものを楽しんでいる。すべてを自動化するのではなく、身体的負担や手間のかかる作業だけを軽減し、農業の本当に楽しい部分は残したい」(木村氏)。メンバーのそうした思いがアグビーに反映され、特に農家の方々からの製品化に対する期待度が高まっています。18年4月からは本格的に事業化が決まり、秋には農家への試験導入が開始する予定です。既に木村氏は「その次」を見据え、「アグビーを使うことで実現する、農業の豊かなライフスタイルを訴求していきたい」と言います。専業農家だけでなく、週末農家や家庭菜園なども含めてマーケットを広くとらえ、農業のポジティブな面を普及させていきたい。木村氏が「人生をかけて取り組みたい」と意気込むアグビーのプロジェクトはKMDとの協働から巣立ち、これからいよいよビジネスとして羽ばたいていきます。
中西金属工業株式会社
アグリイノベーションチーム
木村光希氏
ユーザーに追従するアグビー。

アグビーの開発メンバー。

中西金属工業株式会社アグリイノベーションチーム 木村光希氏

(本記事は2018年3月に作成されました)