Boiling Mind

ダンサーと観客の心理が同期する

Mademoisellse Cinema × KMD「Boiling Mind」

2020年3月、ダンスカンパニーMademoisellse CinemaとKMDによる実験的なダンスパフォーマンスが行われました。約120名の観客にセンサーを取り付けて心拍数と発汗データを取得。それを映像に変換し、舞台上に投影します。赤い映像は緊張状態、青はリラックスしていることを示します。当初は無表情だった観客の心理があらわになり、それに反応するように音楽や照明、ダンスも変化していきます。演出と振付を担当した伊藤直子さんは「ダンサーではなく観客の心を測る、そしてそれを見ながらダンサーが踊るのは今までにない試みでした」と言います。

プロジェクトを率いたのは当時KMD生だった須川 萌さんです。「ダンサーでもある私は、身体の内側で起きていることをテクノロジーで可視化する研究をしていました。南澤孝太教授に修士論文について相談するなかで、このパフォーマンスを立案しました」。テクノロジーとダンスを融合した事例はほかにも様々あります。南澤教授は「ダンサーと観客が感覚をダイレクトに共有するのではなく、別のかたちでお互いの空気感をとらえ、それを相手に返しながら関係性が生まれる。その循環が劇場という空間で共有されることが大切なコンセプトです」と説明します。

須川さんは、自らも参加したダンス班と、テクノロジーを担う研究班の間に立ち、両者のアイデアをひとつのパフォーマンスにまとめる橋渡しを行いました。研究班では、カイ・クンツェ教授が技術面を監修。シーンによって抽出するデータを変え、生成される映像にストーリー性を持たせました。「ダンサーと観客が同期するという発想は、自分が研究者として探求したいことと同じだったので参加しました」。ほかにも多数のKMD生たちが映像、照明、音楽などで協力しました。

そして本番。「観客、ダンサー、研究班が即興的なセッションをつくり上げる。その“共犯関係”がひじょうにうまくいきました」とは、舞台袖から見守っていた伊藤さんの感想。須川さんも「ダンサーにとっては観客に対する信頼が深まり、ダンスの考え方も変わった。これからも身体表現とテクノロジーの融合を追求していきたい」と手応えをつかんだようです

これがきっかけでEmbodied Media内にはテクノロジーで表現領域の拡張に取り組むチームが生まれ、建築や音楽などの分野からも意欲的な学生たちが集まっています。

「Mademoisellse Cinema(マドモアゼルシネマ)」主宰
伊藤直子 氏

(本記事は2021年3月に作成されました。)

観客の心拍数と発汗データが 映像に変換され、舞台上に投影される。